脳神経内科は脳・脊髄・末梢神経・筋肉の病気を担当する内科の一分野です。
脳神経内科が診療する疾患は広範囲に及び、頭痛やめまい、しびれ、神経痛などのよく経験するような症状・疾患から認知症やパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経難病も脳神経内科が担当します。下の表をご参照ください
これまでは神経内科と標榜するのが一般的であったこともあり、よく精神科や心療内科と間違われてしまいますが、担当する疾患は異なる診療科です。精神科や心療内科は「精神の病気・心の病気」を診る診療科で、うつ病や不安障害、統合失調症、心身症などが主な対象疾患です。以前は、精神疾患は血液検査やMRI検査では何も異常が見つからず、これに対して脳神経内科の疾患は検査で何かしらの異常が発見できるという点で違いがある、と患者様に説明することも多かったのですが、最近の医学の進歩により、精神疾患でも特殊な血液検査や遺伝子検査、あるいは画像検査で異常を捉えることが徐々に出来るようになってきており、従来のような説明は難しくなりました。今後、医学の進歩に伴って徐々に精神疾患と脳神経内科疾患の境界が曖昧になってくると思われます。脳神経内科のカウンターパートである脳神経外科(脳外科)はやはり脳を対象とする診療科ですが、脳の外傷(交通事故など)や脳腫瘍、脳動脈瘤など、手術が治療の方法となるような疾患を扱います。脳神経内科で診察して脳の手術が必要な時には脳神経外科へ紹介します。また、脊髄や末梢神経の手術が必要な時には整形外科へ紹介します。このように脳神経内科で診療する症状や疾患には脳神経外科、整形外科、精神科、心療内科、耳鼻咽喉科、眼科などの診療科と重なる部分があります。患者様にとって、どの診療科で治療を受けるのが最も良いか、交通整理をするのも脳神経内科の大切な役目なのです。
頭痛
頭痛は脳神経内科の外来では最も多く遭遇する症状の一つで、頭痛を経験したことがない人はあまりいないと思います。頭痛の原因(表1)は様々で、脳腫瘍や髄膜炎、クモ膜下出血など、何か原因となる病気があって引き起こされる頭痛(二次性頭痛、あるいは器質性頭痛、症候性頭痛などと呼ばれます)と、特に原因となる病気が見当たらない頭痛(一次性頭痛、あるいは機能性頭痛と呼ばれます)があります。二次性頭痛には命に関わるような疾患もあるので、見落とさないようにMRI検査などでしっかり診断することが重要です。一次性頭痛には片頭痛や緊張型頭痛などがあり、これらは慢性、反復性に頭痛が起こります。特に片頭痛は痛みが強く、寝込んでしまうようなこともあり、日常生活に支障が大きい頭痛です。片頭痛は通常、頭の片側(時に両側)に、心臓が動くようにズッキン、ズッキンと拍動する感じの痛みを感じることが典型的で、嘔気を伴いやすく、頭痛が起こっている間は光や音、あるいは臭いに過敏になったり、無理に動くと頭痛が悪化する場合が多いという特徴があります。片頭痛は通常の鎮痛剤が効きにくく、トリプタンという片頭痛専用の特効薬があります。脳神経内科の外来で比較的よく見られる頭痛の主な特徴(表2)をまとめてみました。頭痛に効果のある薬や治療法は頭痛の種類によって違いがあり、自己流で対処しないで脳神経内科医にご相談ください。
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めまい
一般の方々が「めまいがする」という時、その内容は人によって大きく異なる場合があります。医学的には自分がぐるぐる回っているような回転性めまいや、ふわふわするような浮動性めまいをめまいと言いますが、起立したときに生じる立ち眩みや目の前が暗くなって気が遠のく感じ、あるいは物が二重に見える場合や心臓がドキドキするような感じをめまいがすると訴える患者様もいます。そのため、めまいの内容をよく確かめないと誤診をしてしまうので医師にとってもめまいはやっかいな症状です。
回転性めまいや浮動性めまいは体の平衡バランスの異常で生じます。平衡バランスをとるために中心的な役割をしているのは小脳です。小脳は内耳の三半規管や耳石器の情報、眼からの視覚情報、四肢の関節や筋肉の情報を総合してバランスをとるために必要な計算をしています。このシステムに異常が起きるとめまいが起きます。めまいを引き起こす病気(表3)はたくさんあり、多くは耳の病気が原因ですが、中には脳の病気で起こるものもあり、脳由来のめまい(表4)には生命に危険のある場合もあります。めまい以外に表4のような症状を伴う場合は危険なめまいの可能性があります。
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脳卒中
脳の血管が詰まったり破れたりすることで急に手足の麻痺や言語障害などを起こす病気を脳卒中と言いますが、脳の血管が詰まる病気(脳梗塞)が全体の7割ほどを占めます。他に脳の血管が破れて出血する病気(脳出血やクモ膜下出血)があります。脳卒中はかつて日本人の死因の第1位を占めていましたが、最近は順位が下がり、2018年時点で第4位(1位;悪性腫瘍、2位;心疾患、3位;老衰)となりました。しかし依然として患者数は多く、重要な疾患であることに変わりはありません。いったん脳卒中を起こすと麻痺や言語障害、しびれなどの症状が後遺症として残ることが多く、脳卒中にならないように予防することが大切です。高血圧症や脂質異常症(コレステロール、中性脂肪が増えすぎている)、糖尿病を抱えているような方は脳卒中を起こしやすく、特に内臓脂肪が増加して肥満のある方がこれらの内科疾患を持っている、いわゆるメタボリックシンドロームでは脳卒中のリスクが高く、注意が必要です。喫煙や過度のアルコール摂取、運動不足なども脳卒中を起こしやすくなりますので、生活習慣の改善に努めましょう。
認知症
誰でも高齢になれば物覚えが悪くなったり、人の名前などをパッと思い出せないといった経験をするようになりますが、これは正常の脳の老化現象であって病気ではありません。一方、昨日、昔の友人が久しぶりに訪ねてきたことをすっかり忘れているなどということがあれば、これは異常だと考えて良いと思います(図1)。脳に何らかの病気が起こり、脳の神経細胞が傷害されることによって記憶や判断、物事を順序立てて実行するなどの脳機能(認知機能)が次第に低下してしまい、日常生活に支障を来したような状態を認知症といいます。
高齢化社会になって認知症は年々増加しており、現在は85歳以上ともなると3人に2人は認知症あるいはその前段階(軽度認知障害)と言われています。
認知症の原因(図2)は複数ありますが全体の6~7割はアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)が占めます。アルツハイマー型認知症の症状(図3)には物忘れや時間や場所がわからなくなる見当識障害など(中核症状)(図4)と、大声を上げたり妄想を抱いたりする行動や心理の異常(周辺症状)(図5)があります(図3, 4, 5)。高齢になっても認知症にならないように留意点(図6)を守って生活しましょう。